a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

2023-01-01から1年間の記事一覧

論文マラソン189 金英那「二つの伝統―1970年代のモノクローム・アートと1980年代の「民衆」美術」

金英那「二つの伝統―1970年代のモノクローム・アートと1980年代の「民衆」美術」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 〇1960年代以降の韓国では「伝統」の問題が本格的に論じられるようになる。一方で、戦後の西洋の美術運動であるアンフ…

論文マラソン188 金英那「東洋のリリシズムを求めて―金煥基の作品」

金英那「東洋のリリシズムを求めて―金煥基の作品」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 〇韓国のモダニスト画家・金煥基(キム・ファンギ)。彼は1930年代、初期抽象芸術の先駆者であった。1950年代後半から亡くなる1974年までフランスや…

論文マラソン187 福のり子、平野智紀、北野諒『これからどう進む?対話型鑑賞のこれまでとこれから』

目次 1章 逢坂恵理子・福のり子「対話型鑑賞の黎明期:アメリカ→ドイツ→日本」 2章 原泉「美術館と対話型鑑賞」 3章 北野諒「学校教育と対話型鑑賞」 4章 北野諒「科学/医療と対話型鑑賞」 5章 平野智紀「ビジネスパーソンと対話型鑑賞」 6章 森功次「対話…

論文マラソン186 金英那「韓国の「アンフォルメル」運動」

金英那「韓国の「アンフォルメル」運動」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 〇アンフォルメルが韓国の美術界を席巻したのは1957-58年であり、ヨーロッパやアメリカより10年ほど、日本より1-2年遅れていた。 〇韓国のアンフォルメル運動…

論文マラソン185 金英那「解放後の韓国美術序説」

金英那「解放後の韓国美術序説」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 〇戦後の韓国のアートシーンではまずモノクロームの水墨画が挙げられる。彩色の水墨画は近代日本画を連想させたからである。 〇1950年代後半には抽象美術運動が勃興し…

論文マラソン184 金英那「韓国近代彫刻」

金英那「韓国近代彫刻」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 〇韓国では、知識階級が水墨画を修養の一つと位置付けたが、彫刻は彫師や鋳物師が造もので芸術の一分野となかなか認められてこなかった。20世紀以降、西洋美術が流入した後も…

論文マラソン183 金英那「1930年代、東京の韓国前衛グループ」

金英那「1930年代、東京の韓国前衛グループ」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 〇1930年代に東京画壇で活動していた韓国の美術家たちを2つに大別すると、1つは帝展、文展に出品したアカデミックな様式の画家たち、もう1つはヨーロ…

論文マラソン182 金英那「李仁星の「郷土色」 民族主義、あるいは植民地主義」

金英那「李仁星の「郷土色」 民族主義、あるいは植民地主義」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 〇1910年代に韓国に西洋美術運動が紹介されてから、そのスタイルを画家たちは取り入れてきた。しかし1920年代後半になると、画家と評論家…

論文マラソン181 金英那「ミレーの農民のイメージ アジアでの受容のされかた」

金英那「ミレーの農民のイメージ アジアでの受容のされかた」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) ミレー神話 東アジアにおけるミレーの紹介と受容 〇韓国におけるミレーの紹介は、19世紀後半以降の布教活動を行った米国の伝道師、そして…

論文マラソン180 金英那「論争のモダニティ 「新しい女性」と「モダン・ガール」の表象」

金英那「論争のモダニティ 「新しい女性」と「モダン・ガール」の表象」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 「新しい女性」とはだれのことなのか? ハイ・アートにおける「新しい女性」 マス・メディアにおける「新しい女性」 〇「新し…

論文マラソン179 金英那「西洋との最初の出会い 万国博覧会での韓国の展示物」

金英那「西洋との最初の出会い 万国博覧会での韓国の展示物」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) コロンブス世界博覧会(シカゴ、1893年)と東アジア諸国 コロンブス世界博覧会(シカゴ、1893年)での韓国の展示 万国博覧会(パリ、1900…

論文マラソン178 金英那「植民地時代における近代韓国美術序説」

金英那「植民地時代における近代韓国美術序説」『韓国近代美術の百年』(神林恒道監訳、三元社、2011年) 近代美術の基礎付け―朝鮮王朝末期における西洋文化への関心 植民地時代の美術 初期の開拓者たち 近代美術の形成期 東洋絵画 西洋画 〇19世紀後半、西洋…

論文マラソン177 中尾拓哉「第2章 名指されない選択の余地」

中尾拓哉「第2章 名指されない選択の余地」(『マルセル・デュシャンとチェス』平凡社、2017年)。 〇デュシャンは1918年9月にブエノスアイレスへと旅する。この地で兄のレーモン・デュシャン=ヴィヨンの訃報を知る。そして、この地でデュシャンはチェスへ…

論文マラソン176 中尾拓哉「序章 二つのモノグラフの間に」「第1章 絵画からチェスへの移行」

中尾拓哉「序章 二つのモノグラフの間に」「第1章 絵画からチェスへの移行」(『マルセル・デュシャンとチェス』平凡社、2017年)。 ◯マルセル・デュシャンは1924年に《大ガラス》を未完のままとし、以後はチェスプレイヤーとなり、芸術を放棄したと考えられ…

論文マラソン175 ロザリンド・E・クラウス「第7章 シェリー・レヴィーン―独身者たち」

ロザリンド・E・クラウス「第7章 シェリー・レヴィーン―独身者たち」(訳:井上康彦『独身者たち』平凡社、2018年)。 〇シェリー・レヴィーン(Sherry Levine, 1947-)はアメリカの写真家、画家であり、他の作家の作品の複製品をつくり、発表するアプロプリ…

論文マラソン174 ロザリンド・E・クラウス「第5章 シンディ・シャーマン―アンタイトルド」

ロザリンド・E・クラウス「第5章 シンディ・シャーマン―アンタイトルド」(訳:井上康彦『独身者たち』平凡社、2018年)。 フィルムスティル 水平なもの 閃光と反射 名画 嘔吐写真 セックスドールズ 〇シンディ・シャーマン(1954-)の《スティル》という写真…

論文マラソン173 ロザリンド・E・クラウス「第4章 エヴァ・ヘス―コンティンジェント」

ロザリンド・E・クラウス「第4章 エヴァ・ヘス―コンティンジェント」(訳:井上康彦『独身者たち』平凡社、2018年)。 〇ドイツ出身でアメリカに亡命した画家、彫刻家であるエヴァ・ヘス(1936-1970)。1960年代後半のニューヨークでミニマリズムのアーティ…

論文マラソン172 ロザリンド・E・クラウス「第3章 アグネス・マーティン―/雲/」

ロザリンド・E・クラウス「第3章 アグネス・マーティン―/雲/」(訳:井上康彦『独身者たち』平凡社、2018年)。 〇アグネス・マーティン(1912-2004)の作品解釈は、「抽象的崇高」という定番の理解があった。それはエドマンド・バークの『崇高と美の観念の…

論文マラソン171 ロザリンド・E・クラウス「第2章 ルイーズ・ブルジョワー《少女》としての芸術家の肖像」

ロザリンド・E・クラウス「第2章 ルイーズ・ブルジョワー《少女》としての芸術家の肖像」(訳:井上康彦『独身者たち』平凡社、2018年)。 〇彫刻家ルイーズ・ブルジョワ(1911-2010)の作品は、フェミニズムに同調し、確かに魅力的な制作を行ってきた。しか…

論文マラソン170 ロザリンド・E・クラウス「第1章 クロード・カーアンとドラ・マールーイントロダクションとして」

ロザリンド・E・クラウス「第1章 クロード・カーアンとドラ・マールーイントロダクションとして」(訳:井上康彦『独身者たち』平凡社、2018年)。 〇様式レベルにおいて、シュルレアリスムは何ももたらなさなかった、内容についての貢献はミソジニーという…

論文マラソン169 桑原規子「アーニー・パイル劇場をめぐる芸術家たち」

桑原規子「アーニー・パイル劇場をめぐる芸術家たち」(『研究紀要』18号、聖徳大学紀要編集委員会編、2007年)。 はじめに 1 伊藤熹朔の舞台美術 2 アーニー・パイル劇場の美術展示 3 日米美術家の交流 〇アーニー・パイル劇場とは1945年12月に連合国軍が…

論文マラソン168 池上裕子「反復のパラドックス―アド・ラインハートとアンディ・ウォーホル」

池上裕子「反復のパラドックス―アド・ラインハートとアンディ・ウォーホル」(『西洋美術研究』11号、2004年)。 1 反復のスペクトル 2 商業美術における反復 3 絵画制作における反復 4 反復のパラドックス:絵画の死と再生 結びにかえて 〇《黒の絵画》…

論文マラソン167 大川内夏樹「北園克衛の「郷土詩」と「民族の伝統」―詩集『風土』・評論集『郷土詩論』を中心に」

大川内夏樹「北園克衛の「郷土詩」と「民族の伝統」―詩集『風土』・評論集『郷土詩論』を中心に」(『横光利一研究』11号、2013年3月)。 1 はじめに 2 地方文化運動/『鯤』/人類学・民俗学 3 「民族の伝統」と「技術性」 4 「郷土」を想起させるもの …

論文マラソン166 木下直之「甲冑図考―高橋由一の新出作品をめぐって」

木下直之「甲冑図考―高橋由一の新出作品をめぐって」(『美術史』131号、1992年2月)。 はじめに 1 事実 2 意味 〇高橋由一の新出作品である《甲冑図》について「なぜ甲冑を描いたのか」「なぜ甲冑だけを描いたのか」「なぜ甲冑を「土用干とか虫干とでも云…

論文マラソン165 池上裕子「ロバート・ラウシェンバーグの《ゴールド・スタンダード》―現代美術のグローバル化に関する一試論」

池上裕子「ロバート・ラウシェンバーグの《ゴールド・スタンダード》―現代美術のグローバル化に関する一試論」(『美術史』158号、2005年3月)。 序 1 日本におけるラウシェンバーグ受容 2 《ジョン・ケージに捧げる》と《トーキョー》 3 篠原有司男のイ…

論文マラソン164 池上裕子「アメリカのスペクタクルー1964年ヴェネツィア・ビエンナーレ考ー」

池上裕子「アメリカのスペクタクルー1964年ヴェネツィア・ビエンナーレ考ー」(『美術史』162号、2007年3月)。 序 1 従来の1964年ビエンナーレ像 2 アラン・ソロモンのアメリカ館戦略 3 グランプリ決定の舞台裏 4 「アンフォルメルを超えて」 結びに代…

論文マラソン163 古田亮「高橋由一 甲冑圖」

古田亮「高橋由一 甲冑圖」(『國華』1382号、2010年12月)。 〇1989年の時点で所蔵する靖國神社は本作の作者がわかっていなかった。展示を契機とした調査の結果、裏の木枠の文字から作者が高橋由一と分かった。 〇甲冑圖とあるが、甲冑だけではなく兜、矢な…

論文マラソン162 アド・キルー「第7章 シュルレアリスムの周辺で」

アド・キルー「第7章 シュルレアリスムの周辺で」(訳:飯島耕一『映画のシュルレアリスム』フィルム・アート、1997年)。 未来派とダダ ダダからシュルレアリスムへ シュルレアリストたちと映画 並行して 新しい感受性のほうへ 〇美術、文学と連動するように…

論文マラソン161 フランソワ・カラデック「第1章 完全な幸福」

フランソワ・カラデック「第1章 完全な幸福」(訳:北山研二『レーモン・ルーセルの生涯』リブロポート、1989年)。 〇フランスの小説家、レーモン・ルーセルの伝記。1877年裕福な家庭に生まれる。母親の勧めもあり音楽(ピアノ)の道に進むが、10代より詩を…

論文マラソン160 ルッケル瀬本阿矢「第3章 シュルレアリスムと日本の女性芸術家」

ルッケル瀬本阿矢「第3章 シュルレアリスムと日本の女性芸術家」(『シュルレアリスムの受容と変容』文理閣、2021年)。 1 シュルレアリスムと日本の女性芸術家との関係 2 日本における女性詩人の境遇 3 上田静栄の詩作について 4 左川ちかとダリの作品…