a curator's memorandum

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論文マラソン176 中尾拓哉「序章 二つのモノグラフの間に」「第1章 絵画からチェスへの移行」

中尾拓哉「序章 二つのモノグラフの間に」「第1章 絵画からチェスへの移行」(『マルセル・デュシャンとチェス』平凡社、2017年)。

 

マルセル・デュシャン1924年に《大ガラス》を未完のままとし、以後はチェスプレイヤーとなり、芸術を放棄したと考えられてきた。

◯本書はチェスと芸術はつながっているものと捉えた論考である。

デュシャンは初期にはタブローを描いている。チェスをモチーフにした作品をとりあげると、セザンヌ的な《チェス・ゲーム》、よりキュビスム的な《チェス・プレイヤー》がある。前者は家族がチェスに親しむ姿であり、後者は兄がモデルである。

◯《チェス・ゲーム》は、画面上部に男性2人、下部に女性2人が描かれ、構図的に《大ガラス》と似ている。一方、1911年の《チェス・プレイヤー》には兄だけが描かれ、同年の《チェス・プレイヤーの肖像》は父である。

◯《チェス・プレイヤー》と《階段を降りる裸体No.2》を同時に描いていたとデュシャンは述べるが、前者は男性、後者は女性を分離して描き、チェスをモチーフにした3点目の作品《急速な裸体たちに囲まれるキングとクイーン》で再び両者は出会う。

◯《急速な〜》以降、デュシャンは直接的にチェスを主題とした絵画は描いていない。《大ガラス》の「男/女」の構図は、この「チェス駒/裸体」の構図から発展させられてゆく。