a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン172 ロザリンド・E・クラウス「第3章 アグネス・マーティン―/雲/」

ロザリンド・E・クラウス「第3章 アグネス・マーティン―/雲/」(訳:井上康彦『独身者たち』平凡社、2018年)。

 

〇アグネス・マーティン(1912-2004)の作品解釈は、「抽象的崇高」という定番の理解があった。それはエドマンド・バークの『崇高と美の観念の起源』と絡めて語るのが顕著な例である。

〇アグネス・マーティンについての優れた研究として、カーシャ・リンヴィルの現象学的なきめ細かい読解が挙げられる。そのポイントは1、近距離からの読解、2、「後退」してみること、3、不透明性であり、作品を距離との関連から丁寧に論じていく。

〇リンヴィルがマーティンの作品を解釈するため3つの距離について論じた時期と、ユベール・ダルミッシュが『雲の理論―絵画史への理論』をまとめていた時期は重なる。『雲の理論』は/雲/というシニフィアンが重要で基礎的な役割を担うシステムによって、ルネサンス絵画とバロック絵画の歴史を書き換えている。

〇すなわち透視図法は、発明当初から建築学に属する要素であり、構造に属する要素と理解されてきた。しかし遍在する空の測量不可能性と雲の分析不可能性は、透視図法の秩序では、根本的には理解できない。絵画における科学への熱望は、つねに無形態なもの、不可知なもの、表象不可能なものによって条件づけられるとして捉えられる。