a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン163 古田亮「高橋由一 甲冑圖」

古田亮「高橋由一 甲冑圖」(『國華』1382号、2010年12月)。

 

〇1989年の時点で所蔵する靖國神社は本作の作者がわかっていなかった。展示を契機とした調査の結果、裏の木枠の文字から作者が高橋由一と分かった。

〇甲冑圖とあるが、甲冑だけではなく兜、矢などが組み合わされた静物画であり、当時の月例展に出品した作品からかけ離れた大きさであること、水戸藩士の内藤耻叟に推薦された第1回内国勧業博覧会の出品作であり、息子の内藤誠は由一の弟子であったことから、耻叟が息子を介して由一に描かせた作品と考えてよいだろう。

〇モチーフを見直すと、復古思潮のなかで大名が盛んに作らせた典型的な復古模造の武具セットであるとみられる。

〇武具の名物的価値を強調するのではなく、所有者の不在を強く感じさせる意図がある。なおかつこれが描かれた明治10年西南戦争の時期であることを重ね合わせると、敗者としての武士の存在を象徴するようにも考えられる。