論文マラソン76 中原佑介「けちんぼうな芸術家たち ミニマル・アートについて」
中原佑介「けちんぼうな芸術家たち ミニマル・アートについて」(初出『美術手帖』310号、1969年3月)。
芸術の有用性―手仕事か機械仕事か
芸術家は「つくる」人間か
〇現代美術の動向の中で、「手仕事か機械仕事か」という問題提起がなされている。きっかけは「発注芸術」という手続きが生まれたことである。ただし「手」か「機械」かという問いは「製作」という次元でとらえるならなんら対立はしない。機械は単に手の延長だからである。
〇芸術とテクノロジーの背反は、テクノロジーを「有用性」という観念と結びつけてからである。
〇手仕事蔑視の中世と比べると、現代はすべてがテクノロジー(的価値観)が優先される。
〇テクノロジーの一環としての美術を「有用性」の概念で統一しようともくろんだのがソビエトの構成主義であった。1920年代にみられた「機械時代の芸術」という問題意識の本質は、機械の形態美が我々の認識を超えたというような点にあるのではなく、テクノロジーとして同類であった機械的技術と芸術が敵対するほど隔たってしまったことへの驚愕であろう。
〇テクノロジーの一環としての芸術を自覚した一つの回答がバウハウスである。またもう一つの反応として「既成品」の導入がある。
〇既成品の寄せ集めによって作品をつくるという考えは、「製作」ということについてのある種の修正がみられる。ものをつくりだすより、つくりだされたものの価値を変えるという意図である。それは製作ではなく「組み合わせ」である。そこに見られるのは「製作」ということを個人の私有として価値づけるという考え方の瓦解である。
〇ミニマル・アートという現象にみられるものは、「製作」という価値の私有を最小限におさえようとする意図である、と中原は述べる。