論文マラソン40 鈴木勝雄「不在の類型学 日本における概念的な芸術の系譜(1)」
鈴木勝雄「不在の類型学 日本における概念的な芸術の系譜(1)」(『東京国立近代美術館研究紀要』第18号、2014年)。
1 問題の所在
2 物質の変容と不在の射程
2-1 1963年の序章
2-2 感覚を超えて―松沢宥の理路
2-3 消滅したものは何か―荒川修作の図式
2-4 影のハプニング―高松次郎の行為
2-5 不在のイデオロギー
3 おわりに アイディアの自立の陰で
◯日本の戦後美術における「不在化」もしくは「非物質化」をめぐる実作と言説をめぐる展開に着目。
◯1963年、高松次郎が「〝不在体〟のために」という文章を発表、初めて「不在」が現れる。常に不完全である実在をこえる可能的未来として「不在」を使うが、後にその意味は変化する。
◯高松に反応し、同年中原佑介が「不在の部屋」展を企画。高松次郎や赤瀬川源平の梱包したオブジェを出品。もともとモノがもつ意味の無効化、ずれを意図する。このときモノは不在となる。
◯1964年、松沢宥が非感覚絵画を発表。文章のみによる作品でチラシとして配布。メールアートなどメディアを媒介とした行為でもある。
◯1964年、ニューヨークに渡った荒川修作がデュシャンにインスパイアされて「影」の「図式」の連作を発表。
◯1964年8月、高松次郎が影シリーズを発表。
◯鈴木はそれぞれの作品をめぐる背景、評論を丁寧に追い、非物質化、不在化をめぐる想像力の背景を5つにまとめる。
◯1 現代物理学の知見に依拠した実体概念の崩壊、世界像の転換、2 遠近法など視覚の制度への反省をふまえた人間中心主義の解体、3 ものから観念に向かう芸術の根拠の移行、4 消去を介して実在を批判的に乗り越えようとする可能性の追求、5 消去という行為に内在する原爆、戦争の記憶を含めた終末論。
◯1968年、関根伸夫が《位相ー大地》を発表。中原佑介らがこれまで頻繁に使用してきた「非物質化」という言葉は「アイディア」「観念」という言葉に置き換わってゆき、やがて物質の「状態」という中立的な語彙が焦点になってゆく。ここで「不在」「非在」という否定的なニュアンスの言葉が消えてゆく。終末論的なリアリティが時代背景として薄れていったのかもしれない。