a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン52 中原佑介「作家論 眞板雅文 物体と遺影」 

中原佑介「作家論 眞板雅文 物体と遺影」(『美術手帖』418号、1977年3月)。

 

〇眞板が写真を使用した作品を発表し始めるのは1971年頃からだが、パリからの帰国後(1973年)は写真と物体の組み合わせで作品が成立している。写真はその物体にとっての凍結された記憶であり、限定化された過去として登場している。

〇関心の中心は「物体」だが、物体は環境や空間によって独自の意味が与えられる。(意味が不変ではない)。

〇シリーズ《状況》では写真が大きく引き伸ばされている。写真は「過去」に撮影されたものであり、物体は「現在」目の前にある。そうした写真と物体の間には時間的なずれがある。眞板の《状況》は物体と写真を空間的に位置づけながら、時間の意識を誘発させる。

〇物体と写真を空間的に関係づけるために媒介となるのは「光」である。《状況》には電球や蛍光灯が使用されたり、写真そのものにも電光が映っているのも偶然ではない。光をつなぎ目として、眞板は物体と写真を関連づけようとしている。

◯眞板の作品にみられる写真は、眞板自身によって恣意的に選んだ物体の過去の状況である。関心の土台にあるのは記憶である。記憶は目に見えず、物体と写真によって表現される。物体だけではオブジェ以外の何物でもない。