a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン137 加治屋健司「誤作動する武器―クレメント・グリーンバーグ、文化冷戦、グローバリゼーションー」

加治屋健司「誤作動する武器―クレメント・グリーンバーグ、文化冷戦、グローバリゼーションー」(『アメリカ研究』37号、2003年)。

 

はじめに

1 グリーンバーグと修正主義

2 修正主義に対する近年の見直し

3 アメリカ国外におけるグリーンバーグの受容

(1)フランス(2)イギリス(3)ドイツ(4)日本(5)インド

おわりに

 

〇戦後アメリカ美術として抽象表現主義絵画が知られるようになった背景としてすぐれた美術批評の存在が挙げられる。その代表的な人物としてクレメント・グリーンバーグやハロルド・ローゼンバーグがいる。グリーンバーグは60年代半ばから美術家、批評家、研究者から批判を受け始める。中でも、CIAや近代美術館と共に冷戦下に世界各地で自由と民主主義のイデオロギーを喧伝するのに深く関与したとされる政治的批判=修正主義的批判である。

〇しかし修正主義的研究が明らかにしたのは、近代美術館もCIAも実はアメリカの抽象表現主義よりもヨーロッパ美術に関心を向けていたことである。さらに近代美術館と政府機関の間の不和、グリーンバーグと近代美術館の間の不和も確認できる。

グリーンバーグは国外でどう受容されてきたか。まずフランス、イギリス、日本では50年代から60年代にかけてローゼンバーグの批評の方が関心を集めていた。フランスでは支配的言説に対抗する役割を担いつつ、グリーンバーグの批評は若手批評家の間で注目を集めていた。日本では長らくローゼンバーグの方が人気があり、紹介されたグリーンバーグのイメージは文化冷戦とも文化帝国主義とも相いれないもので、むしろ体制の批判者と受け取れた。

アメリカの批評家や研究者は、国外の状況に対する十分な調査をしないまま、グリーンバーグの影響力を批判するようになぜなったのか。それは60年代の登場した文化帝国主義批判の言説が、アメリカの外交政策や海外における文化的影響を批判していくのと時を同じくしていたからである。