a curator's memorandum

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論文マラソン128 城山萌々「瑛九のリトグラフ:再現制作に基づく分版の仕組みの分析」

城山萌々「瑛九リトグラフ:再現制作に基づく分版の仕組みの分析」(『芸術学研究』17号、2012年)。

 

1. はじめに

2. 日本におけるリトグラフ表現の変化とその背景

3. 再現制作に基づく分析の目的と方法

4. 分版の仕組みと表現の関係について

5. まとめと今後の課題

 

瑛九リトグラフ作品について、再現制作に基づき分版の仕組みから分析し、表現について考察する。瑛九はフォトデッサンのプロセスをリトグラフに応用して、アラビアガム液のマスキング効果を用いた描画を基にした版分けによる作品を制作したといえる。

〇日本における芸術家たちの版画表現への意識は1960年代に変化する。東京国際版画ビエンナーレ瑛九を中心としたデモクラート美術家協会出身の作家による版画作品が評価されている。瑛九は日本におけるリトグラフ表現の歴史においても、中心的な存在であったといえるのではないか。

リトグラフの表現は「描くこと」を中心に発展してきた。しかし《街》の分版の仕組みをみると、瑛九は描いたものを刷るだけではなく、リトグラフの技法や版の仕組みを作品に生かしていることがわかる。これは版画の技法やプロセスを用いた作品表現であったり、版を介在するという仕組みそのものを作品に用いたり、作家の「版」の解釈を作品に表現する「版表現」への意識の萌芽である。

〇《ともしび》と《花束》を対象にして実見調査、分版の仕組みを分析。《ともしび》については、描画材にクレヨンを用いて制作された濃淡に、三原色と黒を基本色として掛け合わせることで網膜内において混色させ、色彩を表現する。《花束》については、点の集まりと色の掛け合わせによって画面を構成する。また同様の表現を水彩や油彩でも行っている。

〇アラビアゴム液のマスキング効果を用いた描画を基にした版分けによる作品について分類すると、『瑛九石版画総目録』記載作品158点中の74点について、下記のとおりとなった。

・アラビアゴム液のマスキング効果を用いた描画を基にした版分け 31点

・描画材にクレヨンを用いて制作された濃淡に、三原色と黒を基本色として掛け合わせることで網膜内において混色させ、色彩を表現する手法 38点

・点の集まりと色の掛け合わせ 5点

〇また未分類の84点については、現段階で以下のように区別できる。

・未分類の多色刷 35点

・単色刷 49点