a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン109 江川佳秀「伊原宇三郎をめぐって―正統さと異質さと」

江川佳秀「伊原宇三郎をめぐって―正統さと異質さと」(『伊原宇三郎展』図録、目黒区美術館ほか、1994年)。

 

1920年代、フランスに留学した日本人画学生の間でピカソ新古典主義が注目を集めていたとき、伊原もその影響を受けた。伊原は1925~29年まで留学している。

〇児島善三郎や中野和高、前田寛治らが人体のデフォルメの方法を部分的に取り入れ、フォーヴィスムを基調として制作しようとしていたのに対し、伊原はピカソの造形上の思考に着目して、感興的なものは極力排除しようとしていた。

〇伊原が(ピカソに限らず)古典にひかれた理由は、フランスのような国では古典研究などしなくてもそれが身についているから、いきなり現代研究に飛び込んでも良い。が日本にはその基盤がないから、画家自ら古典を通過しなくてはならない、との考えからである。

〇伊原はピカソの総合的キュビスム新古典主義ともにひかれ、模写も残している。

〇前田寛治の言葉に、新古典主義の作家が「より厳格な幾何学と数学の方でよりクラシックの美に近寄ろうと試みていた」とあるが、伊原はこうした点からもピカソ新古典主義を評価していたと考えられる。