a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン80 小川綾子「所蔵作品研究:荒川修作《新たなるしるしのはじまり》(Beginning of a New Mark)―矢印のゆくえ―」

小川綾子「所蔵作品研究:荒川修作《新たなるしるしのはじまり》(Beginning of a New Mark)―矢印のゆくえ―」(『東京国立近代美術館研究紀要』第25号、2023年)。

 

1 はじめに

2 「瀧口修造」と「下落合」

3 矢印とブランク

4 《Beginning of a New Mark》、凝縮された断層

5 《Beginning of a New Mark》と5枚のデッサン

6 まとめ

 

荒川修作(1936-2010)は80年代後半以降は絵画を描かず、パートナーのマドリン・ギンズと共に建築へと活動領域をシフトさせる。

◯《Beginning of a New Mark》(1985-86)は後期絵画であり、彼らのいう「建築する身体」へと繋がる思想が現れている。

〇本作は1986年佐谷画廊で開かれた第6回オマージュ瀧口修造荒川修作展」のために佐谷氏の依頼にこたえて制作した6点の大型油彩のうちの1点である。

◯複雑な絵画をレイヤーに分けると①乳白色の下地②点描のポット、ティーカップ、花瓶の影③西落合と書かれたコラージュされた架空の地図④「西落合」「三丁目」の文字⑤90度反時計回りに回転させた前述のテキスト⑥縦横無尽に走る矢印⑦迷路の俯瞰図⑧梯子のような長方形、正方形のグリッド⑨キャンバス全体につながりあう多角形の図⑩半分に切れた瀧口修造の文字。

◯西落合三丁目とは瀧口の住居の住所だが、地図は異なる場所のコラージュ。英語で別の街の通りの名も書かれており、瀧口そのものではなく複数の土地のイメージが重ねられている。

◯矢印は様々な長さ、太さで表現され、単なる記号ではなく意識が動き出す瞬間や意志の働きを表すために用いられる。

◯この絵画の矢印はどこに向かうのか?疑問が生まれると同時に下落合、ニューヨーク、パリと異なる場所が立ち上がり、さらにストリート名が書かれているのでイメージは局所化される。