a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン81 松井みどり「網目の彼方に:森山大道におけるラディカルな視覚性」

松井みどり「網目の彼方に:森山大道におけるラディカルな視覚性」(『光の狩人―森山大道1965-2003』図録、島根県立美術館ほか、2003年)。

 

1 日本という枠を超えて:ラディカルさの仮説

2 写真的無意識と境界なき創造性:否定的視覚性のもたらすもの

3 存在の原質:自意識の悪しき円環

4 負の体験から立ち上がる芸術:ポスト・モダンの視覚性

 

森山大道の「アレ、ブレ、ボケ」に代表される曖昧な視覚性は、同時代の現実と対峙するための必要な手段に据えられている。同時代の現実を混沌ととらえる世界観と、既成の哲学や常識に束縛されない身体的知覚を通して把握した体験の記録だという写真観が表れている。

〇またウォーホル、ジグマー・ポルケ、ロバート・スミッソンといった同時代の美術家たちに見られるような、過剰な生産や反復がもたらす「否定的な」視覚性という共通点がある。

〇彼の60年代後半から70年代半ばまでの写真を、現代美術におけるポストモダンといわれる方向性に意義付けることを松井は目的としている。

〇1972年頃、森山自身が職業写真家であることへのいら立ちを感じていた。芸術的性格を帯びた写真から転換し、記念写真のような「記憶のための写真」を求めた。しかし73年には彼にとっての「記憶」は自分自身の内部にある「原質」に深くあるものだと認識し、個人的な思い出とは関係のないものである。

〇68年から73年における森山の写真は、世界の過剰さに反応しながら、その醜さを批判的な媒介として新しい表現となっている。それはウォーホルらのように、現代社会の虚無や倦怠感を映し出しながら、それを超越するようなコンセプチュアルな芸術と肩を並べうるものである。