a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン67 伊村靖子「「発注芸術」再考 60年代美術と設計」

伊村靖子「「発注芸術」再考 60年代美術と設計」(東野芳明『虚像の時代 東野芳明美術批評選』2013年、河出書房新社)

 

「色彩と空間」展とは?

「プライマリー・ストラクチャーズ」展からの影響

「色彩と空間」展カタログー「美術とデザインの間」

美術のデザイン化、デザインの美術化

「デザイン」が美術にもたらしたもの

 

◯東野が企画した「色彩と空間」展(1966年、南画廊)がもたらした議論を通して、60年代日本美術が当時のデザイン領域とどのような接点を持っていたか探ることを目的とする。

◯「色彩と空間」展出品作家はサム・フランシス、アン・トゥルーイット、磯崎新、五東衛(清水九兵衛)、田中新太郎、三木富雄、山口勝弘、湯原和夫の8名。

◯カタログには東野のテキスト「美術とデザインの間」が掲載される。

◯構想の背景にはニューヨークでみた「プライマリーストラクチャーズ」展の刺激、山口勝弘の《Cの関係》、工業素材を自明のものとして取り入れる作家の感覚(山口)。

◯素材への関心のほか、制作方法が「発注芸術」であることも東野は指摘し、その手法が建築家やデザイナーの領域に近づいていると東野は述べる。

◯「プライマリー〜」と「色彩と空間」の共通点はプレキシグラスやプラスティック、アルミニウムなどの工業素材を用いている点だが、「色彩と空間」展で強調されているのは「作品を、見る者を作品の作り出す空間の中に引きこみ、エンバイラメント(環境)を作り出そうとする意識があること」、「綿密な設計図、青写真にもとづいて、工業製品のように工場で作られたもの(発注芸術)」という点である。

◯エンバイラメントの定義において鑑賞者の役割に触れているのは東野の観衆論に対する関心が見える。また発注芸術という言葉にも、これまでの彫刻概念とは異なる意図があったのではないかと伊村は述べる。

◯「発注」は、美術が、デザインや建築の方法論に寄り添うことを意味している。東野は読売アンデパンダンでの工藤哲巳らを反芸術と評したが、「色彩と空間」展は彼の反芸術概念の一つの帰結であるといえる。

◯当時、発注芸術が提起した問題は3つある。1 実制作とアイディアを分けること、2 ジャンル間の溶解と協力の可能性、3 他者性に対する新たな解釈(制作プロセスにおける他者の参加、観衆の参加、再制作など)。

◯これらをさらに東野は発展させて、「現代芸術は一対一の対話を超え、環境芸術を創造した。芸術家はプロデューサーである」という主張に結実。

◯「色彩と空間」は、50年代後半から60年代前半にかけての「建築と美術の協力」の議論に対して、デザインの方法である「設計」に注目した返答と考えられる。そして発注芸術とは、コミュニケーションとしての芸術の可能性への志向と深く結びつき、中心的なテーマは美術にとっての「デザイン」だったと伊村は締めくくる。