論文マラソン59 西村智弘「日常性とコンセプチュアリズム―1990年代後半における日本の現代美術」
西村智弘「日常性とコンセプチュアリズム―1990年代後半における日本の現代美術」(『所沢ビエンナーレ美術展2011』図録、所沢ビエンナーレ実行委員会、2011年)。
1990年代の現代美術
1990年代前半の状況
1990年代のギャラリー状況
「これがぼくらの生きる道」
「アート公募」の作家
「ひそやかなラディカリズム」
90年代コンセプチュアリズムと現代
〇1990年代後半における日本の現代美術を検証することを目的とし、対象は主にインスタレーション(立体)である。キーワードは「日常性」。
〇90年代初頭の状況を振り返ると、「シミュレーショニズム」が台頭していた。広告やサブカルチャーなど消費文化のイメージを引用するスタイルで、消費社会のシステムを批評的に検証するコンセプト重視の作品で、アメリカで台頭した。
〇日本のシミュレーショニズムとして中原浩大や森村泰昌が先駆者であるが、村上隆、ヤノベケンジ、福田美蘭らが挙げられる。
〇シミュレーショニズムの台頭とは逆に、80年代後半から絵画、彫刻への回帰ともいうべき現象が起きていた。内容はフォーマリズム回帰、モダニズム回帰ともいえ、辰野登恵子、中村一美、赤塚祐司が注目された。受けつぐ若手として堂本右美、丸山直文、石川順惠らもいる。
〇このシミュレーショニズムと抽象絵画という図式は90年代後半まで持ち越されるが、このころになると奈良美智、小林孝亘ら具象絵画が注目される。
〇90年代と2000年代ではギャラリーの状況が異なり、90年代に現代美術を扱うレントゲン藝術研究所を始めとし、小山登美夫ギャラリー、ギャラリー小柳、オオタファインアーツ、シュウゴアーツ、タカイシイギャラリー、ミズマアートギャラリーなどが誕生した。
〇作家はギャラリーばかりに頼らず自主企画を行い、1992年の「ザ・ギンブラート」、1994年の「新宿少年アート」などは先駆的な試みである。小沢剛による「なびす画廊」の試みもあった。
◯美術手帖の特集「これがぼくらの生きる道」にはかなり若手の編集者によって若手作家が取り上げられた。ここで「日常性」をテーマとする作品が見られる。また「アート公募」の作家や都現美のMOTアニュアル「ひそやかなラディカリズム」がその嚆矢である。
◯代表的な作家は冨井大裕、河田政樹、丸山直文、内藤礼、高柳恵里など。
◯2007年には美術評論家松井みどりキュレーションの「マイクロポップの時代」が開催。「ひそやかな〜」との違いは「ポップ」が含まれるか否かである。
◯90年代に生まれたコンセプチュアルな傾向は少しもポップ的ではないし、シミュレーショニズムとも異なる、と西村は締めくくっている。