a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン32 正路佐知子「田部光子の美術と思考を追走する」

正路佐知子「田部光子の美術と思考を追走する」(『田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」』図録、福岡市美術館、2022年)。

 

1 はじめに

2 1950年代から1960年代

  九州派のなかで/「魚族」と「繁殖」/《プラカード》/《人工胎盤》/実験的試みと問題意識

3 1960年代末から1980年代まで

  再生産労働を主題に/権力批判と表現の自由をめぐって/九州女流画家展/女性が女性を描くこと/エンジョイ展と地球芸術郵便局

4 1980年代後半から現在まで

  主婦定年退職宣言/海外での発表と作品の展開/旗振り役として

 

 九州派の作家として知られる田部光子の、生涯の制作活動を追った展覧会図録の論考。代表作でもある、ポップアートの要素を取り込みつつ、当時の安保闘争基地問題などを想起させるプラカードや、女性の妊娠の体験を作品化する《人工胎盤》はもちろんのこと、その後の長い活動についても作品に即して丁寧な解説がわかりやすい。

 みていくと、女性だけに特有の「妊娠」「出産」また終わらない「家事労働」、さらに束縛の象徴としての「人形」シリーズ、介護などをテーマに取り組み続けており、フェミニズムをテーマとした作品として世界的にみてもかなり早く、先駆者であることを再確認した。

 福岡市美術館が1979年に開館した際の展覧会はアジア美術をテーマとしており、現在の目からみると個人的には先駆的な取り組みだと感じたが、田部は「アジア現代美術展」に出品作家に女性が少ないことに注目していた、とあり、その視点や意識の高さにも驚かされた。