a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン155 角本麻衣子「マルセル・デュシャンと「射影」—1910年代の制作に関する一考察―」

角本麻衣子「マルセル・デュシャンと「射影」—1910年代の制作に関する一考察―」(『美術史論集』第11号、神戸大学美術史研究会、2011年2月)。

 

はじめに

デュシャンキュビスム

四次元の表象

吊るされたレディメイド

結びにかえて

 

〇グレーズやメッツァンジェは、ピカソとブラックが行わなかった「キュビスム」の理論化を行った。その際に様々な学問を援用したが、その一つが「第四の次元」である。その理解は甚だあやしいものであったが、様々なアーティストにインスピレーションを与えた。

デュシャンも四次元に関心をもち、その一端が《グリーン・ボックス》に残したメモ「射影」に残されている。またその他のインタビューをあわせて検討すると、彼は三次元の物体の影が二次元として把握できることから、四次元の影は三次元の物体であるという仮説をもっていた。特に《大ガラス》の上部の「花嫁」を四次元のオブジェの投影としてつくったと述べている。

〇また筆者は、デュシャンのアトリエにある吊るされたオブジェの写真にうつる印象的な影もまた、射影の実践であると論じる。実際、この写真は「レディメイドの影」と名付けられていて、アトリエ空間の全体を撮っている。またこの実践を通じて、レディメイドが配された空間へとデュシャンの関心が広がったと述べる。