a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン151 脇田裕正「第2章 ユージン・ジョラスーV・F・カルヴァートンー春山行夫―モダニズム文学とプロレタリア文学の間で」

脇田裕正「第2章 ユージン・ジョラスーV・F・カルヴァートンー春山行夫モダニズム文学とプロレタリア文学の間で」(『降り坂を登る―春山行夫の軌跡 1928-35』松籟社、2023年)。

 

はじめに

1 『詩と詩論』の中の『トランジション』―反ジョラス的モダニズムとは何か

2 『トランジション』『モダン・クオータリー』『詩と詩論』

3 カルヴァートン・「人本主義」・「確信の十年間」

4 人本主義―文学的ファシズム

5 「確信の十年間」―アメリカの「地方主義

 

〇春山が影響を受けていたと考えられる文芸誌『トランジション』とその編集者兼詩人兼批評家であるユージン・ジョラスについて検討する。また、ジョラスに対し批判的であったニューヨークの批評家であり活動家のV・F・カルヴァートンの言説を追う。

〇かねてからユージン・ジョラスおよび『トランジション』から春山への影響は指摘されているが、『詩と詩論』にもとりあげられたカルヴァートンの分析はこれまでほぼなかった。

〇『トランジション』はかなり前衛的な文学を掲載しており、ジェイムズ・ジョイスやスタインを春山はこれを通じて読んでいたと考えられる。また春山はジョラスの文学論を何度も『詩と詩論』に掲載している。しかし、ジョラスの詩論は精神分析的であり無意識や夢についての言及が多かった。対して春山はほとんど精神分析には関心がなく、むしろ否定的であった。

〇カルヴァートンは、1920年代半ばに社会主義者として黒人問題や女性問題について論じ、アメリカの言論界で注目された。教条的なマルクス主義者ではなく、『トランジション』やその編集者であるジョラスをエリート主義と批判する。プロレタリア文学からモダニズム文学まで同時代の文学に幅広く目配りし、アメリカ文学の独自性を地方主義文学論として発表するようになる。

〇春山はカルヴァートンのこうした姿勢から、日本のプロレタリア文学にはみられないヨーロッパのモダニズムからアメリカの固有性まで視野に入れ、自らも二つを同時に受け入れていく橋渡しの役割を担う可能性を考えていたといえる。