a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン125 田中正之「クレス・オルデンバーグとニューヨークの街路―《ストリート》と《都市のスナップショット》をめぐって―」

田中正之「クレス・オルデンバーグとニューヨークの街路―《ストリート》と《都市のスナップショット》をめぐって―」(田中正之編『西洋近代の都市と芸術7 ニューヨーク』竹林舎、2017年)。

 

《ストリート》のインスタレーション

《ストリート》をめぐる解釈

ごみ屑としての《ストリート》

「アンチ・フォーム」と《ストリート》

 

〇ソフト・スカルプチャーを制作する以前のクレス・オルデンバーグは、ジャン・デビュッフェと、フランスの小説家ルイ=フェルディナン・セリーヌの諸作品から影響を受けながら表現を作り上げていた。ニューヨークの街路を主題とした初期作品で、1960年に制作した「環境」作品である《ストリート》と、それを舞台として上演されたハプニング《都市のスナップショット》について論じる。

〇オルデンバーグは1960年に「レイ・ガン・ショー」(Ray Gun Show)と題した展覧会(ジム・ダインとの二人展)をダウンタウンにあるジャドソン・ギャラリーで開催する。《ストリート》はここで展示するが、会場を埋め尽くすような段ボール箱、新聞紙、紙くず、木片、瓶、使い古した布や縄などからなるインスタレーションであった。紙類には黒い絵具が塗られ、絵具の線はぎざぎざで粗野な印象を与えてくる。

〇「レイ・ガン・ショー」の最後の3日間は「レイ・ガン・スペックス」としたハプニング・イベントを開催。オルデンバーグは《都市のスナップショット》を上演。インスタレーションを舞台として、まさにストリートに暮らす人々の姿を演じてみせた。

〇《ストリート》は都市生活における日々の苦悩と長く解釈されてきた。特定の事件ではなく日常的苦痛、廃品のような脆い素材も、都市のスラムでの人生のはかなさや、社会の腐敗のメタファーとして理解された。

〇美術史家のジョシュア・シャノンは別のニューヨークでの現実の体験と作品を結び付けて解釈している。1958年に発表された都市計画が公にされると、近隣住民が大々的な反対運動を展開し、最終的にはこの計画は撤回される。反対派が都市再生計画にあたって主張したのは、「狭く雑然とした街路の消失」という問題であり、その消失が地域の文化的生産力をいかに奪うか、ということであった。《ストリート》は言うまでもなく反対派の与するものとして解釈されている。