a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン73 大澤慶久「高松次郎《日本語の文字》《英語の単語》再考―複製メディア時代の芸術作品におけるオリジナルとコピーの問題を軸に―」

大澤慶久「高松次郎《日本語の文字》《英語の単語》再考―複製メディア時代の芸術作品におけるオリジナルとコピーの問題を軸に―」(『美学』71(2)、2020年12月)。

 

1章 これまでの解釈

 1節 版画(オフセットリトグラフ)という芸術形式

 2節 画面の荒れ

 3節 記された語句

2章 本論文の解釈

 1節 《日本語の文字》、《英語の単語》と1971年及び1972年頃の作品との共通性

 2節 「今晩おひま?」という落書き

 3節 同種の作品群の分析ー発話における「この」の分析

 4節 《日本語の文字》、《英語の単語》の作品構造

 5節 複製メディア作品制作の背景

結語

 

◯1970年の第7回東京国際版画ビエンナーレに出品した高松次郎の《日本語の文字》《英語の単語》はそれぞれ100のエディションをもつオフセットリトグラフコピー機における印刷と本質的な差異はなく、外観上同一でありコンセプトに意味がある。また1枚1枚に高松は署名している。

◯画面には荒れがみえるが、これは美的効果とも、複製を繰り返したゆえのノイズとの解釈がある。両作品にはオリジナルの意味を希薄化する意図が読み取れる。

◯記された語句には1自己言及性、2指示するものとされるものとの一致から何も語っていないこと、3文字を事物にとらえること、4循環・反復の効果を認められる。

◯高松の1971〜72年の同種の作品《ゼロックスで百枚コピーされたうちのこの一枚》《この原稿をゼロックスすること》《COPY》と比較しこれらには全て「この」という指示詞が含まれる。

◯高松は発話者と受け手の関係性は、一見同一でも都度「特殊」であり、個別的と考えている。「この」はまさに一度きりの個別の体験を促すものである。

◯本来同一性が保証される版画あるいはゼロックスコピーといった複製メディアをあえて用いた背景には、我々の社会における複製物のなかの個別性に着目させ、社会に対する批判的な意図を読みとれる。