a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン33 谷新「榎倉康二の「初期作品」、「壁」、「写真」について」

谷新「榎倉康二の「初期作品」、「壁」、「写真」について」(『所沢ビエンナーレ美術展2011』図録、所沢ビエンナーレ実行委員会、2011年)。

 

はじめに

1 1960年代と榎倉康二

  初期作品と他者性/「言語ゲーム」の外へ/人格的対称性を超えるフィールド

2 「表現」以前の原野に立つこと

  日常性と知覚

3 関係性の"厚み"あるいは「壁」と「写真」

 

榎倉康二(1942~1995)は「もの派」として、同時代表現や世代論の枠組みだけで語られてこなかったかという問題意識のもと、本論では初期作品、「壁」「写真」を中心にして同時代の価値観との差異を検証する。

初期作品の油彩に描かれる有機体のようなイメージ、そして窓や扉に注目する。自己と他者とはっきり分離できるものではなく、さまざまに複合化された意味ととらえることが可能。

情報化によって失われる「日常」における身体的知覚の回復を念頭において、対象と交流しつついつも「膜」や「壁」を必要とした。これは虚構とリアルの「ずれ」を知覚するためである。

「壁」作品の解釈の糸口として次のようなキーワードが挙げられる。①設置方法は「木と木の間」、「片側が木」、「自立型」。②いわゆる絵画ではなく、手触りのある皮膚感覚③「浸透」と「射影」④空間を切断する「境界」⑤どれにも当てはまらない「中空」。