論文マラソン15 大谷省吾「裏面から見た戦争記録画」
本日の論文は大谷省吾「裏面から見た戦争記録画」(『戦争と美術 1937-1945』国書刊行会、2007年)。
1 出来事の日付と制作の日付
2 タイトルの変更
3 《学徒出陣》の謎
おわりに
東京国立近代美術館に保管される153点の戦争記録画。これらの基本情報は既に公開されているが、裏面の書き込みについてはこれまで広くは知られてこなかった。これらを調査することで、今後の戦争記録画の課題が展望されている。
たとえば画面に描かれている日付が、「戦闘のどの場面が描かれたか」、それとも実際に画家が描いた日付かも明確になっていない作品も多い。また裏の書きこみと発表時のタイトルが変更されており、そこにはなんらかの配慮があったと推定できる。
また戦時中に開催された戦争美術展の調査研究は東京についてがほとんどで、「地方展」について、またどのように受容されたかは出品作品、会場などもわかっていないことが多い。
一般に美術の研究は「何が描かれているか」よりも「いかに描かれているか」に着目する場合が多い。しかし戦争記録画についてはそうしたモダニズム的な考えとは全く異なる受容をされていたことを踏まえると、このような細かな実証的な研究の積み重ねが新たな進展につながっていくことが期待される。