a curator's memorandum

1日1本論文を読んでメモする、論文マラソンをやっています。

論文マラソン3 小勝禮子「アジアの、境界を生きる女たち展-女たちの多声合唱」


今日の論文は小勝禮子「アジアの、境界を生きる女たち展ー女たちの多声合唱」(『アジアをつなぐー境界を生きる女たち 1984-2012』図録、福岡アジア美術館ほか、2012年)。

 

はじめに

1 アジアの女性アーティストの団体と展覧会 1980年代から

2 世界の国際的女性アーティスト展 2000年以降

3 日本での女性アーティスト展:「世界を生きる女たち」展へ

 

アジア地域に生まれた女性アーティストのみで構成した展覧会「アジアの、境界を生きる女たち展」の巻頭テキスト。日本だけに絞っても数少ない女性作家のみの展覧会だが、さらに近年の世界における展覧会傾向を踏まえて、その歴史をまとめている。

1970年代の北米を中心とした「第二派フェミニズム運動」がアジア諸国にも広がり、女性たちがグループをつくって社会制度を変革しようとした。

たとえば韓国ではキム・インスンやユン・ソクナムらが「10月会」を結成、また「女性美術研究会」を立ち上げる。インドでは1987年からナリニ・マラニらがグループ展「鏡の向こうに」を企画、巡回を続ける。フィリピンではブレンダ・ファハルドやイメルダ・カヒーペ=エンダーヤらが1989年「カシブラン」という女性アーティストの団体を結成。こうした80年代からの活動は90年代になって、ヴェネツィアビエンナーレドクメンタといった国際展に招聘されるなどの展開を見せる。

また女性作家自身による草の根的ネットワークによるアジア各地で展覧会が開催された。1997年タイでニタヤ・ウァアリーウォラクンとヴァーシャ・ナイーが立ち上げた「ウーマニフェスト」、2000年のシンガポールのラサール・シア芸術大学で開催された「テクスト&サブテクスト」展。韓国では1994年にキム・ホンヒが「女性、その差異と力ー女性的美術とフェミニズム美術」展を企画開催などである。

 

欧米も1980-90年代はフェミニズムに対するバックラッシュの時代であったが、由本みどりによれば2007年に2つの大規模な国際女性アート展「WACK! 美術とフェミニスト革命」展、「グローバル・フェミニズムズ、現代美術の新しい方向性」展が開催された。2009年にもポンピドゥ・センターの常設展示を女性作家のみで構成し、約2年間展示、さらに複数の女性作家の作品購入にもつながった。

 

日本では東京都写真美術館笠原美智子氏による先駆的な「私という未知へ向かって」展をはじめ、90年代に相次いで展覧会が開催されたが、バックラッシュも勢いが強かった。また栃木県立美術館の小勝氏の一連の展覧会、2010年代は現代美術を中心に女性作家のテーマを据えた展覧会が開催される。こうした問題意識がありつつ、日本のこれらの展覧会は、女性がジェンダー役割に制約を受けていた時代や環境は解消され、自由い自己表現をしている展示であるが、果たしてそういいきれるか、と小勝は締めくくり、この展覧会では多様で雄弁なアジアの女性作家の声を聞き取ってもらうと述べる。